捕らぬタヌキのたばこ税
平井修一
昔から気になっていたのだが、新聞は「庶民」という言葉が好きである。「名もなき庶民のささやかな楽しみ」なんて書く。もろもろの民、大衆、一般人、普通の人の意味だろうが、政治家やエリート官僚、大企業のお偉いさん、大学教授、弁護士、医者、僧侶、有名人(タレント、評論家、歌手、作家)、お金持ちなどは庶民ではない。
無名で、資産といえるほどのものもなく、収入も生活するのがやっと、誇れるほどの仕事に就いているわけでもない、というのが庶民で、それならば小生は庶民であり、庶民は月に3万円ほど奥さんから小遣いをもらっているに違いない。
都内のランチは800円、お茶は150円、たばこは300円で合計1250円。20日間で2万5000円。休みの日でもたばこは吸うからさらに3000円かかり、ドリンク剤を飲んだり喫茶店でくつろげば3万円だ。同僚と1回酒を飲めばもう赤字になる。
庶民のお父さんは仕事を終えて晩酌し、一服プカーッとたばこをふかして、来し方行く末を考えるのだ。
たばこを1000円にしろという暴論が声高に飛び交っている、言いだしっぺはうちだ、と産経新聞がはしゃいでいる。競艇バクチの胴元、笹川陽平が同紙で「1000円に値上げすれば市場が3分の1になっても税収は増えるぞ」とぶち上げたのだ。
庶民はたばこだけで月に3万円の出費になる。たばこを優先すれば昼飯も抜きになる。お茶も買えない。体調を崩して会社を休み、医者に掛かるから、生産性は下がり、医療費は上がる。
たばこを3日にひと箱にすればいいだろう、1日あたり6、7本にすればいい、というのは「無理な相談、もう何回も試し済み」。結果的に「もういっそのこと禁煙する」、カミサンも「あんた、それいいわねえ、私も応援するからね」。禁煙に成功したら二度と喫煙しなくなる。
かくして市場は5分の1、10分の1になり、税収は激減する。捕らぬタヌキの皮算用で、それどころか角を矯めて牛を殺すの類である。JTの株価は大暴落し、筆頭株主の国は大損、社員の大半が解雇され路頭に迷う。葉タバコ農家は壊滅的打撃を被る。たばこ屋、コンビニは売上急落で青息吐息。
流通経費を含めて原価110円。これを1000円で売るというモラルの崩壊は、たばこ密造の大元、北朝鮮を大喜びさせる。「500円で闇マーケットに流せば大儲け! テポドンテポドン売りまくれ」。台湾は密造たばこが流通しているが、日本もその二の舞になるだろう。
たばこを運ぶトラックは全国で1000台以上だろうが、1台あたり3000万円の商品を載せることになる。襲撃され、たばこを奪われ、闇市場に流される。「ひと箱500円でも引く手あまた」というのは新たな犯罪を誘引する。
暴論がまかり通れば道理が引っ込み、明治以来営々と育て上げてきた担税力ある市場を一気に破壊する。これが産経と笹川の邪論に対する庶民の「正論」である。


by よもぎねこ♪
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